5代目オデッセイが目指した美しさとパワー
背丈が高くなりスライドドア採用と普通のミニバンっぽくなったものの、乗ってみると重心が低くて乗降性がいい。
当然走りもいいけど、伝統の乗用車ライクにミニバンらしさも加わった感じ。
5代目にして器量が広がった、オデッセイ。
’94年に初代オデッセイが登場して以来、「低さ」にこだわってきた
初代の全高が1645mだったのは、当時の狭山工場の生産ラインの制約からだったといわれているけど、それが結果的に「これまでになかった乗用車ライクなミニバン」というヒットにつながった。
これが、オデッセイにおいての「成功体験」になったのではないか思う。
それで、キープコンセプトの2代目を経て、3代目、4代目は立駐OKの1550o以下と、その低さを貫いてきた。
車を走りの面から捉えれば重心の低さというのは絶対的な善。
それでいて、どんな小細工をしても重心の高い車は低い車には勝てない。
レース好きのホンダの人たちは、心情的に重心の高い箱形のミニバンは作りたくなかったのかもしれない。
されど、ホンダのこういうコダワリとは裏腹に、市場トレントは「ミニバンは低さより大きなスペースだよね〜」という方向に流れてゆく。
軽からラージクラスにいたるまで、ミニバンはとにかく室内空間が広くて使い勝手のいいクルマが受ける。
電動スライドドアなんか、今やあって当然の基本装備だ。
こういった点が、オデッセイ低迷の原因となった。
乗用車ライクということでスイングドアにこだわってきたことも裏目に出て、ピークで年間12万台以上だったオデッセイの販売台数は、直近では1万台を切るところまでダウン。
ついに、ホンダも重い腰を上げざるを得なくなったというわけだ。
低重心にこだわり走りにこだわったオデッセイ
だから、5代目となる新型オデッセイは、一見してオーソドックスなミニバンに生まれ変わった。
1695oの全高はエスティマより50oほど低いものの標準的なミニバンプローポーションだし、左右スライドドアやラウンジ風の2列目シート採用など、居住性・使い勝手についても素直に業界トレントを継承している。
とても個性的だった先代と比べると余計にそう思うのかもしれないが、「ものすごく普通のミニバンになったね」というのが第一印象だ。
ただし、このへんがいかにもホンダらしくて面白いところなのだが、乗ってみるとこの新型オデッセイ、そんなに平凡な車じゃなかった。
ポイントは、一見普通のミニバンっぽい衣をまとってはいるが、ホンダは依然として低重心にこだわっていることだ。
ルーフ高は従来比150oも高くなったが、燃料タンクや排気系を薄型設計とすることでステップ高で300o、フロア高で37Ooという低床パッケージを実現した。
左右のスライドドアを開けて真横から見るば分かるけど、フロアがとにかく低くて薄い状態に驚いてしまう。
また、前ストラット・後トージョンビームのサスペンションも新設計で、フロントにアルミ鍛造ロアアームを使うなど高品質。
さらに、電動パワステはZF製を採用するし、ダンパーはザックスの振り幅感応型が使われるなど、随所に走りへのこだわりを見せている。
走りの味つけも、従来までのオデッセイの路線からひとひねりある。
今度のオデッセイは「ミニバンとしての走りのクォリティとは何か?」をしっかり考えている。
例をあげると、操舵フィールは自然だけれどやや遅めで、舵角に応じてプログレッシブにロールするハンドリングは、キビキビ感を前面に出していた従来モデルとはかなり路線に違いがある。
ただし、そのかわりそのロール感覚には低重心・低囗−ルセンターならではの安心感があって、操舵ですぐヨーが立ち上がるタイプの足より、2列目、3列目パッセンジャーのストレスがずっと少ない。
また、路面からの入力についても、標準モデルではもちろん、10oローダウンサスに18インチを履くアブソルートEXでも、しなやかと表現したい上質なもの。ザックスのダンパーや入力分離マウントなどが、「このへんで効いている」とうなづける乗り味なのである。
小排気量ディーゼルかハイブリッドが希望
ミニバンユーザーにとって最大の関心事である居住性やユーティリティについては、カタログを見たりディラーで実車を触ったりすると大まかなことはわかるが、こういう走りの味つけについては、実際に乗ってみないとどうにも想像できない。
そういう意味では、初代以来の「低重心がもたらす乗用車ライクな走り」というオデッセイスピリッツは、一見すると転向しちゃったかに見えるこのニューモデルにも脈々と息づいていると言っていい。
いっぼう、個人的に物足りないと感じたのは、パワートレーンのラインナップだ。
新型オデッセイのエンジンは2・4Lガソリンで、標準がポート噴射で175PS/23・Osm、アブソルートが直噴で190PS/24・2smというスペック。
ミッションは全車CVT(アブソルートはマニュアルモード付き)と組み合わされる。
JC08燃費は前者が13・8qL、後者が14 ・OqLで、アプソルートEXの2WDモデルのみ免税、他は75%減税対象となる。
このパワードレーン、ドライバビリティも燃費もよくバランスが取れていてどこといって不満はないのだが、ご存じのとおりこのパワーユニットは北米アコード用。
より燃費コンシャスな日本市場ではインパクトが弱い。
例えるなら、アコードハイブリッドは30・Oq/Lという驚くべき燃費性能を誇るし、流行のダウンサイジングターボならVWジャランはほぼ同サイズのボディを1・4Lで走らせている(J C08燃費13・5q/L)。
あっちもこっちもと期待するのは酷かもしれないが、アコードが長年の低迷を脱するには、フラッグシップモデルだけでもいいからそのくらいの起爆剤が欲しいと思う。
安全装備に関しても、いま旬なテーマだけにもうちよっと踏み込みが欲しいところ。
衝突軽減ブレーキ(CMBS)はEXモデルのみのOP、その簡易版であるシティブレーキアクティブシステムはEXなど上級モデルに標準、ブラインドスポットインフォメーションはEXのみ、自動パーキングステムもOPといったラインナップ。
国産ライバルに負けてはいないけれど、ブッチぎっている感じでもない。
新型アコードの中心価格帯は300万円だが、価格的にVWゴルフやボルボV40との競合も充分に有りそう。
それら輸入車の安全装備の充実ぶりを見ていると、国産ミニバンだけをコンペテイターと見ていては不十分と考えざるを得ない。
この新型アコードの目標月販台数は4000台だが、それはつまりエスティマに匹敵する台数を売りたいという所。
車の基本的な素性はすごくイイと思うのだが、ハイブリッドなどの飛び道具なしにこの目標を達成するのは、そんなに簡単ではないと思う。
アコードのハイブリッドユニットや、フランクフルトショーに出た1・6Lディーゼルなどは、目玉があれば大ブレイクする車ではないでしょうか。